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1H-NMRで新たに同定された尿中の貝類摂取バイオマーカー

魚は日々の食事に定期的に摂り入れるべき食品として、広く認知されています。低脂肪で、タンパク質や各種の必須栄養素を豊富に含むというだけでなく、心血管疾患のリスクを減らす方法の一つとしても支持されています。魚が心臓血管の健康に良いと考えられているのは、魚、特に脂ののった魚が、長鎖オメガ3多価不飽和脂肪酸(3-PUFA)の供給源になるためです。

魚による心臓保護効果は、実際に多数の研究によって報告されています。しかしながら、これまでの観察的研究のデータをみると、食事による魚の摂取と、心血管疾患の危険因子である血圧やBMIとの関連性が明確に示されているわけではありません。魚を多く食べると血圧が下がるという観察結果がある一方で、そのような効果はないという報告もあります。

一貫性のある評価を助ける、魚の摂取状況を客観的に測定可能なバイオマーカーを発見するために、1H-NMRを用いた複数の代謝プロファイリング研究が行われています。そうしたバイオマーカーの研究はさらに、魚の摂取がどのようなメカニズムで心血管の健康に好影響をもたらすのかを解明するにも役立つでしょう。

3-PUFAとポリ塩化ビフェニルは、現時点で知られている魚の摂取量を示す代表的な血清バイオマーカーです。尿中バイオマーカーの研究はまだあまり進んではいませんが、恐らくトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)、タウリン、1-メチルヒスチジンなどは有力な候補となるでしょう。魚の摂取量の尿中バイオマーカーは、観察的研究において非侵襲的モニタリングが可能なことから、特に望ましいと考えられます。

INTERMAP試験(International Study of Macro-/Micronutrients and Blood Pressure; NCT00005271)の最新のデータ解析において、魚の摂取関連した3種類の主要な代謝物としてTMAO、ホマリン、そしてタウリンが同定されました。この試験では、約5000名の被験者の尿検体について、BrukerのAvance IVDrシステムを用いたプロトン核磁気共鳴分光法(1H-NMR)による分析が行われました。手順は、尿検査に関する標準作業手順書(SOP)の通りです。

ホマリンは、貝類の摂取を示す新たな尿中バイオマーカーの有力候補の一つです。この知見は今後の研究を通して検証する必要があるとはいえ、新しい客観的な食事バイオマーカーの開発に貢献することが期待されます。

さらに、魚の摂取量とこれらの尿中代謝物について、血圧やBMIとの関連性も検討されました。そして明らかになったのは、魚の摂取と健康転帰との関係には地域差があるらしいということでした。その差は、文化による食事パターンの違いや腸内微生物叢の違いに起因している可能性が示唆されています。

日本の被験者では魚の摂取に直接的な相関が認められ、欧米の被験者では認められませんでした。その反対に、尿中TMAOは欧米の被験者ではBMIと直接に相関し、日本の被験者では相関が見られませんでした。同様に、TMAOと拡張期血圧との関連性も欧米の被験者では認められ、日本の被験者では認められませんでした。

この研究により魚を摂取した後の代謝物に関する新しい洞察が得られたことで、1H-NMR代謝物プロファイリングを活用した新たな尿中バイオマーカーの開発が可能になるかもしれません。また、健康転帰は民族や地域によって決定づけられる可能性があること、そして、この領域のより踏み込んだ研究が望まれることが明らかになりました。

参考文献

Gibson R, et al. Am J Clin Nutr 2020;111:280–290. https://academic.oup.com/ajcn/article/111/2/280/5645625