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ドキソルビシン毒性を予測する新規バイオマーカー

これらの発見は、コリンリン脂質代謝に基づく治療反応に対する非侵襲的バイオマーカー開発の基礎となる

近年、研究者は、乳がん治療中に起こるドキソルビシン由来の副作用の特異的マーカーを特定するために磁気共鳴分光法(MRS)を使用し、薬の悪影響を予防すると同時に有効性を上昇させる方法を模索しています1

MRSは、原因となる腫瘍中の化学的変化を非侵襲的に、正確に特定する方法です2,3。非侵襲的モニタリング方法は、簡単かつ迅速で、がん患者における奏効率測定用の生検よりもより頻繁に実施可能です。腫瘍の化学成分をより深く理解することで、臨床医によるMRSを用いた脳腫瘍の種類やグレードの特定、治療反応のフォロー、がん患者の再発確認が可能となります4,5

ドキソルビシンの有効性と副作用のメカニズムをより良く理解するため、メリーランド州ボルチモア、ジョンズ・ホプキンス大学のDr. Menglin Cheng率いる研究チームは、2種類の乳がん細胞株(エストロゲン受容体陽性(ER+)のMCF7、トリプルネガティブMDA-MB-231)を臨床的に意義のある用量のドキソルビシンで処理し、Bruker Biospin分光計を用いて処理した細胞株における代謝の変化を1H-MRSにより分析しました。

研究チームは、がんにおいて上昇する6,7総コリン(tCho)値、ホスホコリン(PC)、グリセロリン酸コリン(GPC)を測定しました。PCのGPCに対する比率が高いことは、がんの悪性度の高さと相関することが知られています8。この研究では、がん細胞にドキソルビシンを加えて培養したところ、対照細胞と比較するとGPCの値が3倍高くなっており、また、またPC値が半減したために、PC/GPCの比率が減少することが判明しました。

両方の細胞株にて同様の結果が認められたことから、乳がんにおけるドキソルビシン治療反応のマーカーとして、これらの代謝パターンを幅広く応用できるような独特の遺伝的背景があるのではないかと考えられます。また、ドキソルビシン治療は、がんでは亢進され、細胞遊走や侵入、がんの進行に関連するグリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼ6(GDPD6)、ホスホリパーゼD1(PLD1)、コリンキナーゼα(ChKα)タンパク値を含むグリセロホスホジエステルホスホジエステラーゼドメインの用量依存的減少をもたらしました9-11

研究チームがPLD1に対する低分子干渉RNA(siRNA)を用いたところ、ER+細胞ではなく、特にトリプルネガティブ株といったがん細胞に対するドキソルビシンによる殺傷効果が増大しました。しかしながら、VU0155069にてPLD1を抑制すると、両細胞株においてドキソルビシンの毒性が上昇しました。ChKα標的siRNAは、ER+細胞においてドキソルビシンの抗がん効果を上昇させましたが、トリプルネガティブ細胞ではその効果は認められませんでした。一方、GDPD6 siRNAは両細胞株におけるドキソルビシンの効果を上げ、また、GDPD6サイレンシングは、PLD1やChKαとは異なり、がん細胞の運動性を増大させるといったドキソルビシンに起因する副作用を軽減させました。

ドキソルビシンは、毒性が高いにも関わらず乳がんに対する第一線の治療薬として幅広く利用されています12。2017年に新たに乳がんと診断された患者数は250,000件を上回り、また、40,000人以上が乳がんにより亡くなっています13。ドキソルビシンの毒性を減少させる新しいバイオマーカーを発見することや、乳がんに対する新規治療開発のために新しいターゲットを特定するといった開発には、大きな意義があります。

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参考資料:

  1. Cheng M, Rizwan A, Jiang L, et al. Molecular Effects of Doxorubicin on Choline Metabolism in Breast Cancer. Neoplasia. 2017;19:617-627.
  2. Gadian DG. The information available from NMR. NMR and its applications to living systems. 2 ed. New York: Oxford University Press Inc. 1995;29–64.
  3. Beloueche-Babari M, Chung YL, Al-Saffar NM, et al. Metabolic assessment of the action of targeted cancer therapeutics using magnetic resonance spectroscopy. Br J Cancer. 2010;102:1–7.
  4. Bulik M, Jancalek R, Vanicek J, et al. Potential of MR spectroscopy for assessment of glioma grading. Clin Neurol Neurosurg. 2013;115:146–153.
  5. Nelson SJ. Assessment of therapeutic response and treatment planning for brain tumors using metabolic and physiological MRI. NMR Biomed. 2011;24:734–749.
  6. Moller-Hartmann W, Herminghaus S, Krings T, et al. Clinical application of proton magnetic resonance spectroscopy in the diagnosis of intracranial mass lesions. Neuroradiology. 2002;44:371–381.
  7. Hourani R, Horska A, Albayram S, et al. Proton magnetic resonance spectroscopic imaging to differentiate between nonneoplastic lesions and brain tumors in children. J Magn Reson Imaging. 2006;23:99–107.
  8. Aboagye EO, Bhujwalla ZM. Malignant transformation alters membrane choline phospholipid metabolism of humanmammary epithelial cells. Cancer Res. 1999;59:80–84.
  9. Foster DA and Xu L (2003). Phospholipase D in Cell Proliferation and Cancer11National Cancer Institute, and the institutional support from the Research Centers in Minority Institutions (RCMI) program of the NIH. Mol Cancer Res 1, 789–800.
  10. Ramirez de Molina A, Rodriguez-Gonzalez A, Gutierrez R, et al. Overexpression of choline kinase is a frequent feature in human tumor-derived cell lines and in lung, prostate, and colorectal human cancers. Biochem Biophys Res Commun. 2002;296:580–583.
  11. Stewart JD, Marchan R, Lesjak MS, et al. Choline-releasing glycerophosphodiesterase EDI3 drives tumor cell migration and metastasis. Proc Natl Acad Sci. 2012;109:8155–8160.
  12. Minotti G, Menna P, Salvatorelli E, et al. Anthracyclines: Molecular Advances and Pharmacologic Developments in Antitumor Activity and Cardiotoxicity. Pharmacol Rev. 20104;56:185–229.
  13. American Cancer Society. Cancer Facts & Figures 2017. Accessed November 10, 2017. https://www.cancer.org/content/dam/cancer-org/research/cancer-facts-and-statistics/annual-cancer-facts-and-figures/2017/cancer-facts-and-figures-2017.pdf.