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タンパク質・核酸

NMR分光法を利用したタンパク質および核酸の研究

動作機構の解明

2003年に初めて完全なヒトゲノムが発表されたことは、生物学研究における画期的な出来事であり、これが代替エネルギーや個別化医療などの様々な分野に貢献する可能性は、はかり知れません。アミノ酸または核酸のごくわずかな変化が、癌や消耗性神経筋疾患、HIVなどの深刻な疾患のコントロール、さらには完全根絶のカギとなるかもしれないとは、たいへんな驚きです。

実際には、ヒトゲノム計画の成功は第1段階にすぎません。すべての人がその人に合わせたワクチンや遺伝子治療を受けられるまでには、長い道のりがあります。ゲノムを解明することと、個々の要素がどのように相互作用するか、また、それらが様々な環境や刺激にどのように反応するかを理解することは、同じではありません。

マニュアルの読解

遺伝子がどのように、いつ、なぜ発現するか、そして生成するタンパク質が単独または共同で、人体の内部でどのように機能するかを解明することは、ユーザーマニュアルであるDNA、加えてその転写産物とDNAがコード化するタンパク質の莫大な可能性を理解するための重要なカギです。

核磁気共鳴(NMR)分光法は、構造生物学者にとって重要なツールです。NMR分光法は、蛋白質構造データバンク(PDB)に収録されている10万以上のタンパク質、核酸およびタンパク質-核酸複合体の解析に2番目に多く用いられている実験法 です。構造は機能と結びついているため、こうした研究は様々な疾患および正常なプロセスの解明に役立ちます。

たとえば、研究者は最近、マジック角回転(MAS)固体NMR分光法をcomprehensive multiphase(CMP)NMRプローブおよび1H/1H radiofrequency-driven dipolar recouplingと組み合わせて、アルツハイマー病に典型的なプラークを形成するアミロイドβタンパク質のオリゴマーのスペクトルの分離を行いました。NMR分光法によって高分子も分離できます。選択的ヌクレオチド標識などの様々な増強法を用いて、研究者は二次元固体NMR分光法によって極限環境微生物Pyrococcus furiosusのRNAの構造を決定しました

しかしNMR分光法は、タンパク質や核酸の構造の決定よりはるかに高度な研究にも利用できます。NMR分光法は、機能している分子の解明にも利用されています。研究者は時間分解31P MAS NMR分光法を用いて、大腸菌(E. coli.)のATP加水分解などの 生体プロセスを解明しました

その他のタンパク質および核酸の研究へのNMR分光法の利用例を、以下に示します。

電子常磁性共鳴(EPR)分光法も、タンパク質および核酸の研究に利用されています。たとえば、研究者はEPR分光法をスピン標識法と組み合わせて、タンパク質間相互作用およびタンパク質-オリゴヌクレオチド相互作用を研究しています

NMRによる、注目すべき分子の特定方法

NMR分光法は、固体試料と溶液中の試料の両方を分析することが可能であり、正確な構造決定のために結晶化が必要ではないという理由から、すでにタンパク質および核酸の研究に大きく貢献しています。事実、in vivoでタンパク質構造を決定することができます

しかし、NMRが最大の有用性を発揮するのはこれからです。原子、核酸、電子スピンなど、あらゆるものの標識法を現有の様々なNMR法と組み合わせることによって、タンパク質および核酸に関する莫大な情報(構造、動力学、相互作用など)が明らかになります。

もう1つの素晴らしいイノベーションは、構造解析におけるNMRデータの単純化および自動化のためのプロセスおよびプロトコールの策定によって、ハイスループット・タンパク質構造決定が可能になることです。(eMagResおよびProc Natl Acad Sciの論文もご参照ください)。また、NMR分光法は分子動力学シミュレーションのバリデーション によって、in silico研究の発展推進に役立っています。分子生物学の基礎研究から将来の治療薬の探索に至るまで、NMRはあらゆるステップでの発見に不可欠なツールとなります。