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NMR技術情報

細胞培養培地:品質および栄養素消費量の評価のためのNMRアプローチ

バイオ医薬品およびバイオ後続品(バイオシミラー)の製造における細胞培養培地の使用は、医薬品業界の成長分野の1つです。一般的な培地には規定された栄養素の混合物が含まれており、その大半は低分子です。栄養素組成を経時的に正確に管理することは、細胞培養の性能と得られる生成物の品質を最適化するために不可欠です。この研究では、定量的、非破壊的であり必要な試料調製がごくわずかであるという核磁気共鳴(NMR)分光法のユニークな特性を利用して栄養素混合物のモニタリングを行いました1,2。この解析用にNMRを選択したもう1つの理由は、必要な成分と不要な成分の生成とともに反応の経過中の栄養素の消費量を同時にモニターするためです。成分のモニタリング能力によって、最適な結果を得るためのパラメータまたは成分量の調整が可能になります。

ブルカー製AssureNMRTMを使用して、4.5 g/LグルコースおよびL-グルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)AT0683 中の重要な混合物成分の特定および定量を自動的に行いました。この培地には、いくつかのアミノ酸、ビタミンおよび無機塩も含まれています。700種類の生理的に重要な代謝産物の様々なpH値での1次元および二次元NMRスペクトルを収録したスペクトルデータベース(SBASE)BBIOREFCODEを使用して、AssureNMR解析「QUANT法」 に予想されるDMEM成分を移入しました(図1)。培地のすべての有機成分のSBASE入力がBBIOREFCODEに存在していました。 DMEMスペクトルに観察された実際の共鳴と一致するように領域を調節しました。

AssureNMR法の検証のために、100 uLのpH 7.0リン酸緩衝液(D2O溶液)を500 uLのDMEM培地に加えました。 Prodigy CryoProbeを備えたブルカーAVIII-500 HD分光計を使用してスペクトルを収集しました。既知の外部標準を用いてすべての濃度で校正を行いました。AssureNMRによって得られたDMEMのいくつかの重要な成分の定量結果を図2に示します。

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図1. 発酵条件および予想されるNMR試料条件を反映させたpH7でのSBASE入力を行ってAssureNMR QUANT法に移入しました。

 

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図2. DMEMの重要な成分の定量。注記:総D-グルコース濃度=α+β(2252.41+2198.25=4,450.66 mg/L)。

微量成分の増強のための領域・共鳴選択励起

細胞培養培地の全スペクトルのモニタリングは、明確に規定された一般的な水抑制シーケンス(上記の例では前飽和)によって実施できました。特定の栄養素/代謝産物または特定のクラスの化合物(芳香族、糖質、アミノ酸など)をモニターするためには、SELective Double Pulse Field Gradient Perfect Echo(SELDPFGPE)などの選択的パルスシーケンスを用いて目的の領域/共鳴のみを選択的に励起させました。その結果として、高濃度の他のマトリックス成分の存在下で、微量アナライトの検出および定量の能力が大幅に向上しました。SELDPGPE法の使用例を図3に示します。

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図3. SELDPFGPEを利用したDMEMの選択励起。A)水前飽和による全スペクトル、B)領域選択10.0~6.0 ppm、C)領域選択4.0~2.5 ppm、D)共鳴選択5.30~5.00 ppm(α-D-グルコースアノマー)、E)共鳴選択4.62~4.48 ppm(β-D-グルコースアノマー)。

栄養素利用および生成物のモニタリング

DMEMの試料へのパン酵母の添加ならびに3.0、6.0および18.5時間後のNMRによるモニタリングを行う初期モデルシステムをデザインしました。予想されたように、グルコースが主にエタノールに速やかに変換されました。5.918 ppmでアノマーの二重線(ダブレット)を示す中間体が観察されました。図2でモニターしたその他の成分(アミノ酸)の定量結果はほとんど変化を示していません。AssureNMR法によってグルコース、中間体アノマー、エタノールおよび酢酸を定量しました(図4、表1)。

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図4. EMEM(黒色)および発酵3時間後のDMEM(赤色)のスペクトル。a:α-D-グルコース、b:β-D-グルコース、c:中間体アノマー、d:エタノール、e:酢酸。

 

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表1. 発酵前ならびに3.0、6.0および18.5時間後の反応物および生成物の定量結果。

スペクトル品質および長期安定性に対する重水素ロックの影響

標準的なNMRの知識によると、重水素化ロック溶媒(D2Oなど)を培地に添加すると、フィールドおよびシムの長期安定性が得られます。反応モニタリングの場合は、この方法では特定の時間に一定量を分取し、D2Oを添加した後にスペクトルを収集するというステップの増加が生じます。ロック溶媒なしに分光計の安定性を評価するために、残存水ピーク上のシムにTopshimルーチンを用いて未処理DMEMのスペクトルを収集しました。12時間後に試料を再挿入し、Topshimを再実施し、スペクトルを収集しました。両スペクトルが識別できないほど似ていることがわかります(図5)。
 

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図5. ロックなしでの未処理DMEM(黒色)および12時間後(赤色)のスペクトル。