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医学・製薬

キレート剤による鉄ベースの癌治療を調節して毒性を低減

「DFOによって、癌を治療するためにこれまでよりも高用量の鉄(サレン)を使用できるようになりました。また鉄(サレン)の急性期副作用は軽減できるようです」

癌治療での重金属

多くの重金属は生体において不可欠な機能を担っていますが、過剰な金属イオンは細胞の障害や毒性を生じます。重金属の毒性は、分離(sequestration)や被包(encapsulation)など身体の正常な保護作用を免れることができるので特に厄介です。

一般に重金属は、毒性が高いものの貴重な治療剤でもあります。重金属は、微生物感染や潰瘍、関節炎、癌など様々な疾患の治療に何百年も使われてきました1

ヒ素やアンチモン、金、バナジウム、白金、鉄などの重金属を含む化合物は、特に癌の化学療法剤に広く使われています。このような治療剤は望まれる抗腫瘍作用を発揮しますが、肝毒性、腎毒性、骨髄毒性などの毒性があるため、その使用にはしばしば制限が設けられます2,3

毒性を抑えて治療効果を最大限引き出せるように、重金属含有製剤を投与されている患者には、過剰な循環金属イオンを除去して金属毒の副作用を抑制するよう、キレート剤が投与されるのが一般的です。

この化合物μ-oxo-N,N’-bis(salicylidene)ethylenediamine iron、つまり鉄(サレン)は、潜在的な抗癌治療薬であると認識されています4。サレンには抗腫瘍活性が認められていますが、臨床実務でその効果を十分に利用する前に、過剰な鉄(サレン)を中和するためのキレート剤が必要です5,6。マウスでは、過剰な鉄-サレンが肝臓と腎臓の障害を引き起こすことが認められています。

鉄-サレンは本質的に磁性があるため、磁場を使って誘導したり操作したりすることができます。永久磁石を使って、薬剤送達の標的に照準を合わせることができます。その一方で、交流磁場の利用は熱を発生させるため、in situでは、標的のある高温化学治療によって個別の癌細胞が破壊されます4,5。したがってその毒性を管理できれば、抗癌の手段に強力な武器が加わることになるでしょう。

過剰な鉄を制御する金字塔的な薬剤が、メチル酸デフェロキサミン(DFO)です。DFOは、鉄との親和性が非常に高い鉄-キレート剤です。結果として得られるDFO-鉄複合体は、代謝不活性でフリーラジカルを産生せず、腎臓から容易に体外に排泄されます8。DFOは、過剰な循環鉄イオンに関連した適応症に幅広く使用され素晴らしい成果を示しており、一般に有効で安全とみなされています9,10

こうした背景をもとに、DFOは鉄(サレン)の毒性を最小限に留めるための強力なキレート剤として研究されているのです11。最近の前臨床試験からは、DFOは、鉄(サレン)の遊離イオンと効率的に結合して副作用なく多量の鉄(サレン)を使用することを可能にするとともに、その有効性を高めることが示されました。

また、DFOは鉄(サレン)の磁性と抗癌活性を下げることが分かりました。つまり、DSOは、鉄(サレン)による治療で生じる毒性を抑制する解毒作用にも、その作用度の制御にも使えるのです11。DFO濃度を調整して得られるこのような鉄(サレン)の調節状態によって、その癌破壊作用を制限することができ、健康な組織に対するダメージを最低限に留められます。

鉄-サレンの磁性の評価には、ブルカーEMX-8/2.7 ESR分光計が使用されました。また、鉄-サレンとDFO間のキレート化学反応の測定には、UV Vis分光計が使用されました。

マウスに鉄(サレン)を静注した後に、DFOを投与したところ、細胞毒性とフリーラジカル産生が著しく抑制されました 11。鉄(サレン)の治療量投与後の急性腎肝障害がDFOによって抑制されました。また鉄(サレン)の致死量投与後の生存率がDFOの投与によって上昇しました。

したがって、DFOは鉄(サレン)ベースの癌治療剤の解毒薬となる可能性があり、侵襲度の低い癌化学療法につながりそうです。

参考資料

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