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応用例

気候によるトウガラシの栄養価への影響

「トウガラシのメタボロミクスプロファイリングは栽培地域に依存するため、温度や雨期の降水量などの気候条件の影響を受けます。」

トウガラシは、メキシコ国内のいくつかの地域で広く栽培されている重要な生産物で、世界第6位の輸出量を誇ります1

メキシコでは、トウガラシが経済的に重要であることから、風味と栄養価の両面で品質を迅速簡便に評価できる手法が必要となりました。近年の技術進歩によって、高度な分析手法がトウガラシの生産者にとって身近になり、収穫したトウガラシの特性を短時間で評価することが以前よりも容易になっています。

特に、自動化されて専門家でなくても操作できる核磁気共鳴(NMR)分光法により2、様々な内因性代謝物の同時測定が可能となりました。また、NMR分光法を使用することで、試料を破壊や汚染することなく、再現性の高いスペクトルを数分間で得られます。その結果、メタボロミクス分析が比較的容易に行えるようになりました。

メタボロミクス分析では、生体内の細胞に存在する全ての代謝産物を表す一意の化学的特徴、即ち物質の指紋が得られます3。特定の種の細胞組成の特性を評価するだけでなく、生物が環境条件にどう応答するかといった貴重な情報ももたらします。メタボロミクス分析は、毒性学や創薬など、様々な分野の研究に広く活用されています。

キャベツ、ブドウ、コーヒー、緑茶をはじめとする天然産物のプロファイルは、NMRを用いて既に化学的に分析されており、異なる地域で収穫された作物の違いに関する研究も進んでいます4、5。さらに、NMR分析で得られた情報は、栽培野菜の品種ごとの栄養特性の評価や、気候の違いによる影響を調査するのに役立っています。

現在、NMRメタボロミクス分析は、「セラーノ」という種類のトウガラシに固有の化学的な指紋を把握するのに使用されています。このセラーノは、メキシコで最も多く栽培されているトウガラシの品種の1つですが、多岐に渡る代謝物を含むことで知られています。ただし厳密には、代謝産物の組成は、その苗の遺伝子や栽培条件によって異なります6、7

最近の研究では、メキシコ国内の異なる地域で栽培されたセラーノトウガラシのメタボロミクスプロファイルを得るために、1H NMR分析法が用いられました8。気候が大きく異なる2つの地域を対象に研究が行われました。オアハカは、半乾燥かつ半温暖な気候を特徴とする地域で、ベラクルスは、温暖な気候ながらも夏と初秋に豊富な降水量に恵まれる地域です。この2つの地域で収穫されたセラーノトウガラシの水画分を、Bruker の750 MHz NMR分光計およびTXIクライオプローブで分析しました。

分析結果から、セラーノトウガラシには40種類の異なる代謝物が含まれており、その大半が栄養に関係するものであることが判明しました。例えば、7種類の必須アミノ酸を含む合計13種類のアミノ酸が同定されました8

有機酸の量は、オアハカ産とベラクルス産のトウガラシでは大きく異なります8。特に顕著だったのは、オアハカ産トウガラシには、乳酸エステルが含まれているもののコハク酸エステルは含まれていない一方で、ベラクルス産トウガラシには、乳酸エステルが含まれていない代わりにコハク酸エステルが含まれる点です。トウガラシのビタミンCは、有機酸であるシュウ酸から生成されるため、トウガラシに含まれる有機酸の違いは、その栄養価の違いにも影響を与えます。

こうした分析結果から、セラーノトウガラシの化学的な指紋を特定する上で、温度傾向や水分供給を決める気候の重要性が浮き彫りになりました。トウガラシの風味と栄養価を決定付けるプロファイルは、代謝物によって決まることから、その特性はトウガラシが栽培される地域の気候による影響も受けるということがわかります。

参考文献

  1. Gaytan D, Benita F. Economics of Agriculture 2014;61(2):307‑317.
  2. Larive CK, et al. Analytical Chemistry 2015;87(1):133‑146.
  3. Nicholson JK, Lindon JC. Systems biology: metabonomics. Nature 2008;455:1054–1056.
  4. Wei F, et al. Journal of Agricultural and Food Chemistry 2016;64(33):6459‑6465.
  5. Jahan K, et al. Food Chemistry2013;137(2):68‑75.
  6. González-Zamora A, et al. Molecules 2013;18(11):13471‑13486.
  7. Okunlola GO, et al. Sciences in Cold and Arid Regions 2016;8(3):205‑211.
  8. Becerra-Martínez E, et al. Food Research International 2017;102:163–170.

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