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食品科学・安全性

EPRを活用した食品照射管理

世界全体で50万トンを超える食料品や栄養補助食品に放射線処理が施され、その大半を香辛料と野菜調味料が占めているとされています。この量は食品総生産量に対して決して多くはありませんが、消費者保護の現行基準と追跡可能で透明性のある食品生産チェーンの必要性の観点から、適正な食品管理戦略を策定することが必要だと考えられます。

Radura symbol

照射食品(一部の国では包装材を含む)については、国の機関がその責任において認可リスト[1]を公表しています。欧州連合(EU)指令[2]では、照射食品だけでなく、そうした処理がなされている原料(含有量の多少にかかわらず)を使用した食品にも標示をおこなわなければならないと明記されています(上に示しているのが国際食品照射マークのラデュラ)。例えばドイツでは、香辛料やハーブ、野菜調味料については放射線照射が許可されていますが、鶏肉やエビは許可されていません。したがって、国や連邦の機関はEUの基準に従って酪農食品や輸入食品を管理し、食品会社や食品輸入業者に関連法令を順守させることが義務付けられています。

照射管理
食品照射は、サルモネラ菌などの食物媒介病原菌による健康リスクを低減し、消費期限を延長する(発芽抑制、熟成遅延)ためにおこなわれます。実際、イオン化放射には微生物の細胞分裂を抑制し、いわゆる放射線分解生成物のほかにフリーラジカルを産生する働きがあります。フリーラジカルは乾燥した環境で比較的安定しています。

例えば、放射線処理をおこなった鶏肉の骨の部分や乾燥香辛料には相当量の安定ラジカルが含まれていることがあり、EPR分光法(EPR=電子常磁性共鳴、ESRともいう)を使えば簡単に検出することができます。1990年代には、EPRによる照射食品のサンプル調製、測定手順、絶対同定に関する、欧州全体における基準を定めるために、大規模な協議やラウンドロビン試験がおこなわれました。

ブルカーのEMXシリーズやELEXSYSシリーズなどの標準的な研究用EPR分光計を使用すれば、優れた感度で食品照射管理をおこなえますが、EPR分光計には高度な技術が数多く盛り込まれているので操作が複雑で、経験を積んだ技師や科学者でないと運用できません。

EPRによる食品照射管理が安全性と信頼性を備えて広く世間に受け入れられる検査法となるには、設定や操作が簡単な専用の卓上型EPRソリューションが必要です。また、使用目的に合わせて設計された操作手順とアプリケーションに加えて信頼性のあるキャリブレーションと自己検証機能がソリューションパッケージには不可欠です。そういう意味で、ブルカーのe-scan Food Analyzerは理想的な選択肢です。この装置は、これまでに数多くのラウンドロビン試験ですばらしい成績を残してきたEMS104卓上型EPR分析装置[4]の後継機です。

骨を含む照射食品の検出
骨を含む照射食品の検出に用いられている手法[3]は、食品検査でe-scan Food Analyzerをどのように利用できるかを示す一例です。動物の骨は主にヒドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2でできています。ヒドロキシアパタイトがイオン化放射(X線、ガンマ線、加速電子)に曝露すると、安定ラジカル(主にCO2などの不純物に由来)が発生し、他のものとはっきり区別できる特徴的なEPRスペクトル[5]が現れます。そのため、骨が放射線処理されていると、検査で検出される特徴的なEPR信号は軸対称のgテンソル、g1= 2.002(1)とg2= 1.998(1)で表すことができます[3]。それに対して、放射線処理されていない骨では通常、等方性のg = 2.005(1)に相当する信号がえられます[3]。照射による「軸方向の」EPR信号は12か月以上安定した状態を保ち、加熱による影響も受けません。そのため、鶏肉、ウサギ肉、豚肉、魚肉などの骨を含む照射食品の同定においては、この信号が判断基準となります。

そうしたことから、EPR装置の役目は、次の式で表される関係に従ってg 値を正確に決定することにあります:
g = hν/β B0
式の中のhはプランク定数、vはマイクロ波共鳴周波数、βはボーア磁子、B0は共鳴時の磁場を表します。

このように、g 値の正確性は、マイクロ波周波数と磁場をどれくらい正確に測定できるかによります。周波数は、周波数計を使えば非常に正確に測定することができ、DDS(ダイレクトデジタル合成)装置を使えば設定も簡単におこなえます。磁場は、直接測定することも間接的に測定することもできます。NMRによる磁場測定ではB0が直接読み出されますが、既知のg 値を利用して参照サンプルをEPRで測定する場合はB0が間接的に決定されます。磁場を直接測定すれば最高の正確性がえられますが、それを実現するのに必要とされるハードウェアやソフトウェアへの投資は相当な経済的負担となります。

Chicken bone spectra by EPR
図1 e-scan Food Analyzerで記録した、放射線処理済み鶏肉の骨のEPRスペクトル。
このサンプルのスペクトル(磁場掃引中央の軸対称の線形)は、既知のg値(1.980)を使用して参照マーカー(右上がりの等方性信号線形)のスペクトルと並行して測定されています。水平軸は、B0磁場の値(ガウス)になっています。

e-scanでは、ブルカーが特許を有している参照マーカーを使用する形で、間接的な磁場較正法を簡単に利用できます。図1には、e-scan Food Analyzerで取得された、放射線処理済み鶏肉の骨の典型的なEPRスペクトルが示されています。見て明らかなように、このスペクトルは2つの要素、つまり、2つのg値のある中央の軸方向スペクトルと、右上がりの等方性線形で構成されています。後者は、既知のg値(1.980)を使用して参照マーカーからえられたものです。磁場掃引が線形だと仮定すると(セルフテストモードで確認、下記参照)、サンプルからの信号のg値は自動的に算出できます。ツールが信頼できる結果を自動で確実に出すようにするために、スペクトル線形も考慮します。サンプルとマーカーの信号の相対強度を利用すれば、半定量分析をおこなうことも可能です。

Spectra from e-scan Food Analyzer
図2 放射線処理済み鶏肉の骨の同一サンプルからえられた2つのEPRスペクトルを重ねて示したマイクロソフトのエクセルのグラフ。e-scan Food Analyzerのデータエクスポート機能と、その解析結果の優れた再現可能性を示しています(2つの出力結果の重ね合わせ)。

解析結果(オペレーター名、信号強度、g 値など)が自動生成されると同時に、すべての生データとシステムのログデータが保存されるので、便利で遡及性のある業務が保証されます。さらに、重要なデータや解析結果はすべてマイクロソフトのエクセル®に自動でエクスポートされるので、報告や追加分析をおこなうのに便利です。図2はe-scanソフトウェアの画像で、自動作成されたEPRスペクトルのエクセルグラフが表示されています。エクセルのマクロを使えば、重ね合わせることも可能です。こうした例から、e-scan Food Analyzerは優れた再現可能性を備えていることがわかります。ただし、重ねて表示されている同一サンプルの2つのスキャン像を別々に表示することはできません。

参照文献
[1] International Consultative Group on Food Irradiation.
[2] CODEX General Standard for Irradiated Foods, CODEX STAN 106-1983, rev. 1-2003.
[3] EN 1786:1996. Foodstuffs – Detection of irradiated food containing bone – method by ESR spectroscopy.
[4] Helle N, Maier D, Linke B, Such P, Gögl KW, Schreiber GA. Elektronen- Spin- Resonanzmessungen mit einem Kompakt-ESR Spektrometer, Bundesgesundheitsblatt 7 (1992) 331-336.
[5] Ikeya M. New Applications of Electron Spin Resonance, Dating, Dosimetry and Microscopy, World Scientific, London (1993).