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医学・薬学

NMRベースのメタボロミクス分析

マレーシアおよび東南アジア原産のEurycoma longifolia (トンカットアリ、TA)は、男性の性欲や生殖能力を高める薬として伝統的に使われています。 TAには多様なエキスがありますが、水エキスが最も一般的です。男性不妊症は、世界中の多くのカップルが影響を受けている、不妊の主たる要因です。男性不妊症の状態を調べるには、通常は精液サンプルを分析しますが、そのサンプルは自慰行為により採取されます。生殖能力の定量的尺度である精子数の増加は、システム生物学における代謝変化と関連している可能性があります。メタボノミクスの手法を動物の生殖試験に適用することによって、バイオマーカーの発見につながる可能性があります。

この研究はまず、特に生物学的に活性なクアシノイドに関して、地理的に異なる地域のTAの根間に代謝的区別があるかどうかを調査するために実施されました1。クアシノイドが豊富に含まれているTA植物の多い地理的位置を示唆するという意味で、分析結果は有用なものになるかもしれません。クアシノイドはニガキ科の植物の代謝物で、ニガキ科の植物にある多数の治療特性を担っていることが明らかになっています。中でも、男性の生殖能力の向上に関与することがよく知られています。

前述の研究に続いて動物実験を行い、濃度の異なるクアシノイドのTAエキスがラットの精子数に及ぼす影響と対応する治療後の尿中代謝物の変化を調べました2。またこの実験では、ラットに、精子数増加に関連する血漿バイオマーカーがないか調べることも意図されていました3。精子のサンプルを自慰によって採取する方法は患者が受け入れ難いことから、このアプローチが、ヒトの男性の生殖能力を評価するための補足や代替手段になると考えられます。

a) 植物の研究1
Perak (n = 30)と、Selangor、Kedah、Terengganu (各n = 5) で採取したTAの根の水エキスの代謝的区別を、1H-NMR分光計に計量科学データ解析法として直交部分最小二乗法判別分析(OPLS-DA)を組み合わせて調査しました。計量モデルを使って、サンプルをその由来に基づいて明確に区別することができました。その結果、区別可能な代謝産物候補として、コリン、乳酸、コハク酸、ユーリコマノール、ユーリコマノール-2-O--D-グルコピラノシドが検出されました。TerengganuとPerakのサンプルはそれぞれ、ユーリコマノールとユーリコマノール-2-O-β-D-グルコピラノシドの含有量が高めでした。

続いて、主要な代謝物とクアシノイドを同定するための植物基準物質として、Perakで採取したTA根の水エキスの1H NMRを用いました。また、マレーシアの様々な州で採取したTAの根のクアシノイド濃度を定量NMR法で測定しました。

b) 動物実験2,3
24匹の雄のSprague–Dawleyラットを6匹ずつの4群に分けて、48日間、それぞれに、水(対照、1群)、TA水エキス(2群)、クアシノイドの少ないTAエキス(3群)、TAクアシノイドの豊富なエキス(4群)を投与しました。48日間の処置の終了後、各ラットに対して精子数分析が行われました。処置後の尿と血漿を採取してNMRで分析しました。その尿と血漿のプロファイルを、精子数レベルに応じて分類しました。
その結果、2群と4群の精子数が、1群と3群に比べて顕著に高いことが示されました。OPLS-DAモデルからは、精子数レベルの点で、尿プロファイルに明確な区別のあることが示されました。結果的に、ラットは精子数が正常(1群および3群)な群と多い(2群と4群)に群に分かれました。精子数の多い群の1H-NMRプロファイルには、トリゴネリンとアラニン、安息香酸の濃度が高く、また3.42 ppmで高い信号強度を示しました。その一方で、正常な精子数の群ではエタノールが高濃度でした。したがって、この結果から、ラットの精子数増加に関するクアシノイドの有効性が証明されました。また尿中の量的マーカーが、精子のプロファイルと雄の生殖能力状態の分析に適していることが示されました。
Carr-Purcell-Meibum-Gill(CPMG)実験にOPLS-DAを用いて、精子数の正常なラットと精子数の多いラットの血漿代謝物の変化を評価しました。血漿の代謝プロファイルを捕捉して生殖能力を推定するため、精子数増加に関連したバイオマーカーと考えられるものを調査しました。その結果、精子数の多い群では、総合的な血漿プロファイルとの関連で、アラニン、乳酸塩、ヒスチジンの濃度が高いことが分かりました。ただし、エタノールの血漿濃度は、精子数が正常な群の方が、精子数の多い群よりも高値でした。

参考資料

1. Forough Ebrahimi, Baharudin Ibrahim, Chin-Hoe Teh, Vikneswaran Murugaiyah & Kit-Lam Chan (2017). NMR-based plasma metabolomic discrimination for male fertility assessment of rats treated with Eurycoma longifolia extracts. Systems Biology in Reproductive Medicine 63 (3) 179–191.
2. Forough Ebrahimi, Baharudin Ibrahim, Chin-Hoe Teh, Vikneswaran Murugaiyah and Kit-Lam Chan (2017). 1H NMR-based discriminatory analysis of Eurycoma longifolia from different locations and establishing a profile for primary metabolites identification and quassinoids quantification. Planta Medica, 83:172-182.
3. Forough Ebrahimi, Baharudin Ibrahim, Chin-Hoe Teh, Vikneswaran Murugaiyah and Kit-Lam Chan (2016). Urinary NMR-based metabolomics analysis of rats possessing variable sperm count following orally administered Eurycoma longifolia extracts of different quassinoid levels. Journal of Ethnopharmacology, 182, 80-89.

Written by Chin-Hoe The, Bruker.  Chin-Hoe obtained his PhD in Pharmaceutical Chemistry from University of Sains Malaysia. He joined Bruker Malaysia as a NMR Application Scientist and supports the South East Asia region and provides the assistance to the customers especially who are new in the natural products – plant metabolomics fields.

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