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化学・石油化学関連

費用効率の高い核磁気共鳴法によるバイオディーゼル含有量の測定

「…卓上型の低磁場核磁気共鳴分光計は、バイオディーゼル含有量の測定において汎用性の高いツールとなり得る」

貨物輸送トラックや列車、バス、船、及び農耕作業・建設用車両の大半はディーゼルエンジンを採用しています。これにはディーゼルエンジンが熱力学的効率の高さから費用対効果の高い輸送動力であることが大きな要因となっています。また各国の政府によって、ガソリンからより環境負荷の小さいディーゼルへの転換を奨励する優遇措置が設けられたことにより、多数の乗用車や小型トラックでもディーゼルエンジンが用いられるようになっています。原油由来のディーゼル燃料は、まさに世界中で最も広く使われている燃料と言えます。

ところがその後、ディーゼルエンジンの排出するガスが人体に深刻な影響を及ぼすことが明らかになりました。ディーゼル排気には窒素酸化物や二酸化窒素、粒子状物質が高濃度で含まれており、その吸引により毎年何万人もの人が若くして亡くなっています。これまでディーゼル車の利用が奨励されてきたことから、有害なディーゼル排気の削減策が急務となりました1

バイオディーゼルは、植物性又は動物性油脂とアルコールとの反応によって得られ、石油系ディーゼル燃料と非常によく似た物理化学的特性を持っていますが、汚染物質や硫黄酸化物、一酸化炭素の排出量は低減されることが分かっています。また、エンジンの改造が必要となる植物油や廃油とは異なり、一般のディーゼルエンジンに使用することができます2。このことから、バイオディーゼルは化石燃料の燃焼を抑え、健康被害のリスクを低減するための現実的な選択肢となっています。

ディーゼル燃料とバイオディーゼルを混合することで、ディーゼル排気の削減が可能となります。石油ディーゼル・バイオディーゼル混合燃料におけるバイオディーゼル含有量の最低基準を導入する法律が制定されており、この施行に当たっては、混合燃料中のバイオディーゼル含有量を測定するための標準試験方法の確立が求められます。現在、主に赤外分光法に基づく複数の手法が用いられていますが、新たに、より携帯性及び費用効率の高い分析法が提案されています3

時間領域核磁気共鳴(NMR)分光法を用いたこの手法では、励起された原子核が平衡状態へ戻るまでに要する時間を測定します。時間領域NMRでは低磁場を用いるため、安価な卓上型NMR分光計による測定が可能です。また、永久磁石を使用することから、液体ガスによる極低温冷却が不要となります。

時間領域NMR分光法は様々な産業分野で広く用いられており、定性・定量分析において信頼性及び利便性が高く、迅速な手法であることが証明されています。加えて、非破壊的な手法であり、試料の調製を必要としません。

この時間領域NMR分光法を用いた新たな手法により、永久磁石を使用したBruker社製mq-20型NMR分光計を用いて、バイオディーゼル含有量の異なる複数の燃料試料が検討されました。測定されたスペクトルはバイオディーゼル含有量との強い相関を示し、単変量解析及び多変量解析のいずれを用いても、バイオディーゼル含有量の正確な測定値が得られました。

この最新の手法は、フーリエ変換赤外分光法を用いた従来の規格に精度では及ばないものの、入手が容易で携帯性の高い卓上型NMR分光計を用いた迅速な測定が可能であるという利点があります。このことから、燃料試料中のバイオディーゼル含有量の現場での測定において、利便性及び費用効率の高い有望なツールであると言えます。

Bruker社製minispec TD-NMR装置の詳細についてはこちらまで:Bruker社お問い合わせ窓口


参考資料:

  1. Stauffer E and Byron DJ. Alternative fuels in fire debris analysis: biodiesel basics. Forensic Sci. 2007;52:371−
  2. Knothe G, et al. The Biodiesel Handbook, 2nd Edition; AOCS Press: Champaign, IL, 2005.
  3. da Rocha G, et al. Determination of Biodiesel Content in Diesel Fuel by Time-Domain Nuclear Magnetic Resonance (TD-NMR) Spectroscopy. Energy Fuels 2017;31(5):5120–5125.