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タンパク質・核酸

MDシミュレーションとNMR分光計を用いたIDPヘリックス含量の予測

天然変性タンパク(IDP)は、転写、細胞シグナリング、細胞周期の調節といった重要な細胞突起において必須の役割を果たしています。IDPをエンコードする遺伝子突然変異は、がんや心血管系疾病に関連しています。

IDPは、パートナータンパクの結合部位において、らせん構造をとります。しかしながら、IDPの天然変性領域(IDR)は、他分子と作用する前にらせん構造を採択するため、IDPの結合特性に多大な影響を与えることとなり、どのIDRが天然変性性を持つのかという点が研究者の注目を集めています。

モデルタンパクに対し科学者が利用する主要な計算法の一つに、分子力学(MD)シミュレーションがあります。これは、特に核磁気共鳴(NMR)などの技術と併用すると原子レベルでの分析が可能となりますが、結果の予測能力は、原子の動きに与える影響力を算出するために用いられる力場水モデルに依存します。

ドイツ、ミュンヘン工業大学で行われた近年の研究で、Rainer Bombliesらの研究チームが、高度MDシミュレーション法とNMR分光計を用いて、異なる水モデルに対する実験を行いました。研究チームは、β-カテニンシグナリング調節において必須タンパクであるAxin-1と呼ばれるIDPのらせん形成の傾向に注目しました。β-カテニンは、細胞間接着と遺伝子転写を調節します。これは、アポトーシスとAXIN1遺伝子の突然変異を誘発し、種々のがんと関連しています。

また、研究チームは、他の分子と作用する前にらせん構造を示すとされているAxin-1の中間領域(残基380~490)に注目しました。三重共鳴バックボーンアサインメント用の実験を使い、BrukerのAvance III 600 MHz分光計とAvance II 900 MHz分光計でNMRスペクトルを測定しました。Avanceシリーズは、先進的なエレクトロニクスコンセプトで設計されているため、市販の分光計の中では最も速く、フレキシブルです。

NMR測定による二次的な化学シフトは、(結合パートナーがない)天然状態のIDR断片がらせん構造を持つことを示しました。たとえわずかであってもらせん構造をとりやすい傾向は、断片の結合親和性に大きな影響を与えるため、非常に重要なことであると研究チームは述べています。この結果は、IDPの結合特性がどのように微調整されるかを示す基礎となるかもしれません。

しかしながら、予測ヘリックス含量の程度は、選択した水の力場モデルに依存します。これまでのTIP3PやTIP4P-wsでのシミュレーションは、らせん構造の傾向を比較的良好な精度で再現していましたが、IDP分析に特化したTIP4P-Dは、折りたたまれたペプチド立体配座を極度に嫌う傾向がありました。より具体的には、TIP4P-Dモデルの力場は二次構造要素の形成と持続を重視しない傾向があり、側鎖の塩橋における安定性を損ないがちであると研究チームは述べています。

研究チームは、IDPの研究において力場水モデルの選択が極めて重要であるとしており、現状ではTIP3PとTIP4P-wsが残余らせんを表示する最適モデルであると述べています。

参考資料:

Bomblies, R et al. Transient helicity in intrinsically disordered Axin-1 studied by NMR spectroscopy and molecular dynamics simulations. PLoS One 2017: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0174337

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NMR分光計AVANCEシリーズの詳細についてはこちらまで:Bruker社お問い合わせ窓口