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NMR技術情報

DNP実験用のサンプル調製方法

動的核偏極(DNP)は、特に生体材料および医薬品の分野で固体核磁気共鳴(NMR)実験の感度を大幅に向上させます。DNP-NMRのベネフィットの1つはデータ収集速度の上昇であり、固体材料の迅速な解析を可能にします。

DNP-NMRを用いる理由

構造生物学および材料科学の研究において、NMR分光法は化合物の構成成分を決定するための最先端の方法です。NMRはこの目標の達成に不可欠ですが、評価対象の核の磁気モーメントの小ささなどが原因で感度が低レベルです。その結果、核スピンリザーバーの小さな分極によってNMR信号強度が非常に低くなり、理想的な結果が得られません。

DNP-NMRを用いれば、電子スピンリザーバーから核スピンリザーバーへの大きなボルツマン分極の移動を促進することによって、NMR信号強度を著しく増強することができます。DNP-NMR実験のメカニズムは試料が固体か液体かによって異なります。これらのメカニズムを以下に示します。

  • 溶液NMR:オーバーハウザー効果
  • 固体NMR:交差効果、固体効果、熱混合

DNP-NMR実験用の試料調製

試料の調製には、ブルカー製DNP-NMR分光計、ローター、試料に適切な溶媒などのいくつかのツールが必要です。また、不対電子が存在しなければなりません。具体的には、DNPが十分な性能を発揮できるように、試料にフリーラジカルを添加しなければなりません。

DNP実験に使用する分極剤は、通常はニトロキシドベースのフリーラジカル、一般に酸化に抵抗する能力とともに様々な水性溶媒への高い溶解度を維持する能力を持つ不活性ラジカルです。代表的なニトロキシドベースのフリーラジカルは、AMUPol、TEMPO、TOTAPOLなどです。理想的には、試料の濃度範囲は5~20 mMとすべきです。濃度が低すぎると、電子の存在量が少なすぎてDNP増強が促進されない場合があります。

ラジカルの溶媒への溶解は、DNP実験用の試料調製の初期ステップの1つです。ラジカルを試料に送達するために最も効率的な方法は、溶液を使用することです。凍結保護剤の溶媒の使用は、低温への曝露中に試料を保護するために非常に重要です。たとえば、試料にタンパク質を使用する場合は、氷結晶形成によるタンパク質変性を防ぐために、低温曝露時にそのタンパク質を凍結保護剤の溶媒に入れておく必要があります。

試料が水性溶媒に溶けない場合(膜タンパク質や繊維などの場合)は、ラジカルを均一に分布させる追加ステップが必要です。これらの試料の混合または懸濁にはラジカル原液が有用な場合もありますが、大半はラジカル溶液によって遠心分離します。高濃度のラジカルを使用する場合は約10 mMに達します。多量の脂質を含有する試料には、これらの脂質はそれ自体に凍結保護作用がある場合が多いので、グリセロールを減らす必要があります。

ブルカー製固体DNP-NMR分光計を用いた実験用の試料を調製する際に、研究者はまずフルローターと同じ量の粉末化した固体試料を用意します。次に、固体試料に溶媒をゆっくり加え、試料と溶媒を混ぜ合わせてウェットペーストを作ります。このペーストは濃度が高めで、過剰な水を含まないものである必要があります。含水率を低下させるために試料の追加が必要な場合がありますが、混合物がペースト状の稠度を維持していなければなりません。その後、このペースト混合物をフルローターに充填してNMR実験を実施します。

DNP-NMR実験用のブルカー製分光計

ブルカー製固体DNP-NMR分光計は、固体NMR実験における信号強度の増強によって高度なNMR実験を実施できるようにデザインされています。用途は以下のとおりです。

  • 固体生体試料のDNP-NMR:小型ペプチド、膜タンパク質および可溶性タンパク質の増強。
  • 材料科学:ブルカー製DNP-NMR分光計では、薬物送達、精製機器および触媒に広く用いられるハイブリッドケイ素材料の分子レベルでの解析が可能です。
  • 13C-プロリンのDNP増強SPMAS:共通溶媒(shared solvent)に分極剤を添加するか、または試料にラジカルを添加します。低温(100~120ケルビン)条件下でMASを用いて試料を測定した後にNMR実験を実施します。
  • エクスパンシン・タンパク質結合による細胞壁の構成:ブルカーDNP-NMR分光計は、エクスパンシンの13C信号に由来する信号を選別するためのREDORフィルターの使用によって、植物細胞壁に混在しているエクスパンシンの検出に役立ちます。REDORフィルターの使用後、スピン拡散によって細胞壁の多糖とエクスパンシンの間の相関を解明します。