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タンパク質・核酸

天然変性タンパク質の配列特異的な帰属

生体系の天然変性タンパク質(IDP)の機能や構造、ダイナミクスは、まだ完全に解明されていません。

IDPは、構造の欠如(伸びきった構造)と高い運動性という特性のために分析が困難であると考えられますが、核磁気共鳴(NMR)法ではこのような興味深い巨大分子に関する配列特異的な情報を得ることができます1-3

プロリンはアミドプロトンを持たないため、通常の 1H-15N 相関実験ではプロリン由来の信号が検出されません。しかし、プロリンはIDPにおける構造の柔軟性を保ち、二次構造のモチーフの形成を妨げるという、非常に重要な役割を担っている可能性があります4

ChemBioChemに最近掲載された論文には、イタリアの研究チームが 13C 直接検出のNMR実験を用いてIDPのプロリン残基を検出した経緯が詳しく報告されています。NMRスペクトルの測定には Bruker AVANCE NEO分光計と、13C 直接検出用に最適化された極低温に冷却されたクライオプローブが使用されました4

13C 検出の実験を駆使することで、CBP-ID4と呼ばれるIDPのプロリンの指紋領域のスペクトルを得ることができ、このタンパク質に含まれる45個全てのプロリン残基を、シグナルの重なり合いがほとんどなく検出することに成功しました4

IDPのNMRスペクトル

13C, 15N および 1H を用いた3次元の三重共鳴実験では、球状タンパク質由来のNMR信号の完全な帰属がしばしば実現しています。ところが、IDPはその柔軟性ゆえに、3次元の三重共鳴法では完全な帰属をするために十分な分解能が得られません。多次元スペクトルにおいて高い分解能が必要とされるためです3,5,6

このイタリアの研究チームがJournal of Biomolecular NMRに発表した論文によると、彼らは 13C 直接検出APSY NMR実験を用いることで、αシヌクレインの配列特異的な帰属を達成しました6

使用したのは先の研究と同じBrukerのAVANCE NEO分光計と同じプローブの組み合わせで、αシヌクレイン骨格中のペプチド結合におけるカルボニル炭素とアミド窒素原子の化学シフトの帰属を行い、タンパク質骨格に沿ったアミノ酸配列の情報を導き出すことができたとされています6

翻訳後修飾の検出

IDPは全てのタンパク質と同様、翻訳後に様々な変化を受ける可能性があり、こういった修飾はNMRを用いても検出や検討が困難な場合があります。チェコ共和国のマサリク大学の科学者チームは最近の論文で、1次元 31P スペクトルを用いてIDPにリン酸化修飾の存在を検出したこと、そして、2次元 1H-13C、1H-15N HSQC実験によりリン酸化された残基を同定したことを報告しました。NMRスペクトルの測定には、BrukerのAVANCE III HD分光計(現在のAVANCE NEO)が使用されました7

得られた 31P スペクトルからはモデルペプチド中の2つのリン酸化部位が確認され、HSQC実験ではモデルペプチド中のリン酸化された残基としてチロシンが同定されました7

結論

NMRはIDPの構造やダイナミクスの研究に役立つ強力な技術です。不完全な帰属、化学シフトの狭い領域におけるシグナルの重なり合い、翻訳後修飾の検出といったIDPにおける課題は、最新技術をもって克服することができるのです。生物学的に重要なIDPを特徴づけることは、様々な疾患の新たな治療法の開発に貢献するものと期待されます。

参考文献:

  1. ‘Structure and Function of Intrinsically Disordered Proteins’ —Tompa P, Fersht A, CRC, 2009.
  2. ‘Application of NMR to studies of intrinsically disordered proteins’ — Gibbs EB, Cook EC, Showalter SA, Archives of Biochemistry and Biophysics, 2017.
  3. ‘NMR contributions to structural dynamics studies of intrinsically disordered proteins’ — Konrat R, Journal of Magnetic Resonance, 2014.
  4. ‘Prolines’ fingerprint in intrinsically disordered proteins’ — Murrali MG, Piai A, Bermel W, Felli IC, Pierattelli R, ChemBioChem, 2018.
  5. ‘Intrinsically Disordered Proteins Studied by NMR Spectroscopy’ —Felli IC, Pierattelli R, Springer, 2015.
  6. ‘13C APSY-NMR for sequential assignment of intrinsically disordered proteins’ — Murrali MG, Schiavina M, Sainati V, Bermel W, Pierattelli R, Felli IC, Journal of Biomolecular NMR, 2018.
  7. ‘Efficient and robust preparation of tyrosine phosphorylated intrinsically disordered proteins’ —Brázda P, Sedo O, Kubícek K, Štefl R, BioTechniques, 2019.