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医学・薬学

TD-NMRによる固体混合物の化学成分の定量化

製剤処方開発に向けた活用法

薬剤開発の初期段階を首尾よく進めるには、候補薬剤の多形体の特性を明らかにすることが、きわめて重要です。最近提案されている、時間領域核磁気共鳴(NMR)分光法を利用した方法であれば、そうした情報を迅速に取得でき、研究者もその情報を利用しやすくなります。

知識の必要性

原薬(API)は、多形体をとって溶媒和物や水和物を形成する傾向があります。そうした特性は、研究初期段階のサンプルに固体状の多形体の複合混合物がしばしば含まれる場合の薬剤開発において、問題を発生させる原因となります。薬剤開発の始めの6か月間には、さまざまな固体状のAPIの特性を明らかにして、後々予期せぬ結果を招かぬようにし、安定的で再生産可能な剤形を特定することが、きわめて重要になります。APIの特性を明らかにするという場合、薬剤の生産や保管、また賦形剤との相互作用が固体多形体の存在にどのように影響しているかを知ることも含まれます。

とくに、非晶質の含有物が存在する場合、例えば溶解度や用量への影響など、薬剤の特性に大きな影響を及ぼす可能性が考えられます。したがって、規制や患者の安全といった観点から、混合状態のAPIの非晶質含有物を正確に定量できることが必須条件となります。

なぜ時間領域NMRを使用するのか?

ここ数年、API多形体を解析する主要ツールとして、固体NMRが注目されるようになっています。しかし、固体NMRにもいくつか欠点があるのは確かです。例えば、多くの労力と時間を要す場合があることなどです。

時間領域NMRは従来のNMRに代わるもので、固体NMRにはない長所が数多くあります。第一に、卓上型装置で稼働できるので、高解像固体NMRでの実験よりも少ないスペースと設備投資で済むことが挙げられます。時間領域NMRは永久磁石を使用した低磁場で動作するため、極低温冷却が不要です。そのほか、従来よりも短い時間で緩和測定をおこなえます。サンプル調製もきわめて単純で、固体粉末を10mmガラス管に充填するだけです。

時間領域NMRは不均一サンプルの分析も可能で、タブレットやカプセル、ジェル、ペーストといったさまざまな剤形に利用できます。こうしたサンプルの調製に要する作業は最小限で済み、自動化オプションを使えばハイスループットを必要とする状況に適した検査法に設定することも可能です。

時間領域NMRの利用法

研究者のDirk StueberとStefan Jehleは最近、時間領域NMRを使用して混合薬剤サンプル内の非晶質含有物を明らかにする方法を提案しました。この提案は品質管理分野で高解像固体NMRに取って代わることを意図したものではないものの、検査時間が短縮されるので、分光法技師はより難易度の高い実験に時間を充てることができるようになります。

2種類の成分からなる混合物の場合、時間領域NMRでは純粋成分のT1飽和回復曲線(SRC)を基準曲線として測定して、SRCを測定しておいた混合物の成分定量の際に使用します。定量には1Hと19Fのいずれの緩和曲線も使用できます。したがって、時間領域NMRによって薬剤混合物の非晶質含有物を調べる場合は、薬剤の純粋非晶形サンプル(A)と、薬剤の純粋結晶形サンプル(B)、およびその非晶質含有物を確定しようとしている混合物サンプル(C)について測定をおこないます。

td-nmr relaxation curves

そのデータから、研究者は重み付け係数を使って成分の線形結合を混合サンプルのSRCに整合させることで各成分の相対比率がわかるので、Cに含まれるAとBの相対量を算出することができます。この方法が他と違うのは、エラーが発生しやすい完全緩和時間解析をおこなう必要がない点です。代わりに、基準となるSRCの線形結合を混合物のSRCに整合させた結果から、混合物内の基準成分の相対量を割り出します。

研究チームは、非ステロイド系抗炎症薬のイブプロフェンとインドメタシンの混合サンプルを使って、自分たちが開発した検査法を説明しました。チームは、5~50%のさまざまな割合でこれら2種類の薬剤をブレンドしたサンプルを用意しました。その方法によって、各サンプルのSRCを約8分で測定することができました。整合手順を踏めば研究者らはSRCの線形結合の係数を導き出すことができ、その係数はイブプロフェンとインドメタシンの相対質量比率に直接置き換えられます。その結果、この方法には誤差0.5%以内の正確性があることがわかりました。

研究チームは時間領域NMR法の有効性を証明するために、ブルカーのminispec mq20を使用しました。minispec mqシリーズの中でもmq20は、食品工業や化学工業、高分子工業から医療・製薬産業に至るまで幅広い分野で、一般的な品質管理用途において設置面積比で最高水準の性能を誇っています。mq20は、5~60MHzの1H共鳴周波数で使用できます。さらにminispec mqシリーズは、工具不要の交換プローブや可変温度NMRプローブ、パルス磁場勾配システム、新たに登場したminispecサンプル自動化システムなどを使用してアップグレードすれば、処理能力を最大限まで高めて生産性を飛躍的に向上させることができます。

参考文献

Kawakami K. Current status of amorphous formulation and other special dosage forms as formulations for early clinical phases. Journal of Pharmaceutical Sciences 2009; 98: 2875-2885.

Shah B, Kumar Kakumanu V & Bansal AK. Analytical techniques for quantification of amorphous/crystalline phases in pharmaceutical solids. Journal of Pharmaceutical Sciences 2006; 95: 1641-1665.

Stueber D & Jehle S. Quantitative Component Analysis of Solid Mixtures by Analyzing Time-Domain 1H and 19F T1 Saturation Recovery Curves. Presented at Experimental Nuclear Magnetic Resonance Conference; 10-15th April 2016; Pittsburgh, Pennsylvania.

特許申請No. US 62/294,375を出願中。

minispecシリーズの詳細については、ブルカー にお問い合わせください。