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環境科学

包括的多相(CMP)-NMRで見る汚染物質の分子の旅

液相–ゲル相–固相サンプル専用に作られたプローブでNMRの有用性を強化

環境流出は、費用面だけではなく環境面や健康面でも高くつきます。しかし、流出の直後や長期的な影響の中で何が起きるかは十分に理解されていません。それは、流出後には複雑に関連し合う力学や相互作用があり、分子レベルで何が起きているかを判断するのが難しいためです。

溶液NMRや固体NMRは特定の流出成分を分析するには有用ですが、トロント大学の研究者グループは、最初の液体流出から液体と土壌の混合によるゲル相、さらに汚染物質の隔離まで、流出全体の過程を調査したいと考えました。研究グループによると、液相–ゲル相–固相の相乗作用が環境と生物の活動を決定します。各相を別々に調査すると、サンプルを混乱させ、ゲル相と固相の界面における化学的相互作用、変態の速度論、自然状態の確認などの重要な構造情報を除外してしまう可能性があります。環境問題を分子レベルで理解し対処するには、従来のNMRの機能を向上させる必要がありました。

必要は発明の母

流出調査のためにNMRの新しい使い方を研究・開発するため、トロント大学の研究者はブルカーBioSpinの専門家と協力し、天然試料を変更せずに液体、ゲル、固体の分子間の相互作用や構造を分析できる多相NMRアプローチを開発しました。

トロント大学とブルカーBioSpinのチームは、1年間の共同作業によって、包括的多相(CMP)-NMRの状況を調査するための2つのプローブを設計しました。さらに、汚染のすべての相を通じて分子結合と相互作用を調査しました。

その結果は、2015年11月18日にオンライン発行された『Environmental Science & Technology.』の記事、「流出から隔離まで――包括的多相NMRで見る汚染物質の分子の旅」(DOI: 10.1021/acs.est.5b03251)に掲載されました。

NMRの実験はすべて、500 MHzのブルカーAvance III分光計で、プロトタイプのマジックシールドアクティブ角勾配付きMAS 4mm 1H−19F-13C−2H CMP-NMRプローブを使っておこないました。

PFC汚染物質の導入

CMP-NMRが実際の状況でどのように機能するかを示すため、研究者は2つの過フッ素化合物(PFC)を土壌と水のサンプル中に投じました。PFCは人間生活にも環境全般にも一般的に存在します。ペルフルオロオクタン酸(PFOA)は農業でよく使われ、土壌と強力に結合することで知られています。ペンタフルオロフェニル(PFP)は木材防腐剤、殺虫剤、除草剤に使われています。

PFOAは溶媒相から固相へすぐに移動します。PFPの方が長時間溶媒相やゲル相にとどまってから固相へ移動します。研究者は界面を分析し、PFOAが疎水性尾部を介して土壌に入り、土壌中の微生物タンパクと優先的に結合することを発見しました。

PFPは多数のゲルや固体の土壌成分と相互作用し、芳香族化合物、特にリグニンと優先的に結合します。

その結果、従来のアプローチだけでは汚染物質のふるまいを正確に説明できないことが証明されました。汚染物質がどのように作用するかを予測するには、CMS-NMRの専用プローブと高度な技法を使って収集した複雑な情報群を検討する必要があります。重要な要因は、土壌の化学的性質と成分、土壌の有機成分の物理的なアクセシビリティ/膨潤性、汚染物質が生物学的に相互作用する可能性、汚染物質が固相と液相の界面を変化させる可能性などです。

研究者は、この調査で使われたCMP-NMRアプローチは、農業で一般的におこなわれている土壌用界面活性剤の混合と環境との関係を評価するために有効だったとしています。

詳しい情報

Panagos, P., et. al. Contaminated sites in Europe: Review of the current situation based on data collected through a European network. J. Environ. Public Health 2013, 2013.2013110.1155/2013/158764

Denis Courtier-Murias, Hashim Farooq, Hussain Masoom, et.al., Comprehensive multiphase NMR spectroscopy: Basic experimental approaches to differentiate phases in heterogeneous samples, Journal of Magnetic Resonance, Volume 217, April 2012, Pages 61-76, ISSN 1090-7807, http://dx.doi.org/10.1016/j.jmr.2012.02.009.

The Madrid Statement on Poly- and Perfluoroalkyl Substances (PFASs) Environmental Health Perspectives, May 2015; http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1509934

Perfluorinated Chemical (PFC) Research, U.S. Environmental Protection Agency
http://www.epa.gov/chemical-research/perfluorinated-chemical-pfc-research

参考資料