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タンパク質・核酸

H5N1ウイルス複製の基礎メカニズムの解明

2003年以降、15か国から世界保健機関(WHO)にH5N1ウイルス感染のヒト症例が約650例報告されています。死亡率が60%に達する病原性の強いウイルスであるH5N1は、公衆衛生に重大なリスクをもたらすとともに、パンデミック(世界的大流行)を引き起こす可能性があります。2011年には5か国(カンボジア、中国、バングラデシュ、エジプトおよびインドネシア)から62症例が報告され、34例が死に至りました。最近では他の国々でも、家禽でのアウトブレイク(流行)が報告されています。

H5N1のヒトへの感染をうまく確立するためのメカニズムを理解することは、将来的なパンデミックを防ぐための予防および管理戦略の策定に不可欠です。

グルノーブル構造生物学研究CEA-CNRS-UGAでは、研究ディレクターMartin Blackledge氏のチームが、H5N1ウイルス複製の活性化に寄与するタンパク質の分子機能を研究しています。

News Medicalのインタビューで、Blackledge氏は、Journal of the American Chemical Society誌で発表されたチームの研究結果について語りました。研究チームは、H5N1ウイルスのポリメラーゼの1つの小型ドメインが重要な立体構造変化を生じることによって、このポリメラーゼ片が宿主細胞核に侵入できるようになることを明らかにしました。この立体構造変化によって、ポリメラーゼを核内に持ち込む輸送タンパク質(インポーチン)とポリメラーゼの相互作用が生じます。この変化が生じなければ、ウイルスの侵入および複製は不可能です。

この試験を実施する以前、研究チームが知っていたのは、X線結晶構造解析によって確認されたポリメラーゼの「閉鎖型」立体構造のみでした。ポリメラーゼが核内で機能を発揮することもわかっており、この閉鎖型立体構造はインポーチンと相互作用できないことから、研究チームは、結晶状態が異なり核内に侵入できる第2の「開放型」立体構造が存在するのではないかと考えました。

ブルカー製の一連の最新型NMR分光計を装備したこのチームは、溶液NMRを実施して、両方の立体構造を研究することができました。

「細胞環境は複雑度が高い溶液であることから、溶液NMRは不可欠です。タンパク質は溶液中を移動します。その動的挙動は機能に不可欠です」とBlackledge氏は述べています。

研究チームは、溶液中でこれらの閉鎖型立体構造と開放型立体構造が断続的に入れ替わり、NMRによってそれらが原子分解能で可視化され、相互変換速度が測定できることを明らかにしました。

NMRによって得られた情報に加えて、Blackledge氏のチームは小角散乱法(SAS)を実施してタンパク質の全体の形状を測定しました。彼らは、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)も利用して、タンパク質の動力学を研究しました。

さらに、NMR、SASおよびFRETの3つはすべて、核内への輸送に寄与するポリメラーゼ-インポーチン相互作用の研究に利用できるツールです。

興味深いことに、この研究から開放型立体構造と閉鎖型立体構造の間の変換速度が温度に依存し、温度が高いと開放型立体構造が多く生じることが明らかになりました。

「我々はポリメラーゼがどのように核内に入るかについて、理解を深めることができました。これは新しい研究分野を切り開くものです」とBlackledge氏は結論付けています。