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医学・製薬

NMRによる抗マラリア薬の有効性の評価

「NMRを用いて寄生体の解糖活性を測定することで. . . 環状の寄生体には強力な抗マラリア薬の作用を受けにくい性質があることが確認されました」

マラリアは深刻な感染症であり、毎年およそ50万人もの死者が出ています。ヒトのマラリア症例の半数以上は、単細胞原生動物である熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)によるものです。赤血球に侵入した後のマラリア原虫の発育周期は48時間で完了し、その最後には赤血球が崩壊して、新たな寄生体が放出されます。この新世代の原虫はメロゾイトと呼ばれ、ただちに別の赤血球へと入り込むことができます。

現在実用化されているマラリア治療薬に対しては抵抗性を示す症例が増えているため、効果的な新薬の発見が必要とされています。しかも、望ましい転帰を得るには、寄生虫のライフサイクルのあらゆる段階で効果を発揮できる薬でなければなりません。

原虫は赤血球に侵入すると、環状体、trophozoite(栄養体)、そしてschizont(分裂体)へと形態学的にも明らかな変化を遂げながら成長し、メロゾイトを生み出します。この血液期の原虫は急速に発育・増殖するので大量の炭素源とエネルギーを必要とし、さかんに糖代謝を行っています。つまり、解糖活性のレベルを知ることが、原虫の生存能力を示す有効な指標となるのです。

中でもtrophozoiteは、細胞分裂の準備のために非常に活発な代謝活動を行っており、抗マラリア薬が効きやすい状態にあります。それに対して環状体はそれほど代謝活動を行わないので、抗マラリア薬に抵抗しやすく、実際に、環状体の休眠がアルテミシニン耐性の獲得に貢献しうるという報告があります。このように赤血球内の各期のマラリア原虫に対し、抗マラリア薬を用いた治療がどう作用するかを理解することが、有効な治療法を開発するには不可欠です。

P. falciparumに感染した生きた赤血球の解糖活性を、核磁気共鳴(NMR)分光法による乳酸蓄積量の測定を通じてリアルタイムに観察可能であることが、既に明らかになっています。研究者は現在、この技術を活用して、赤血球内に存在する各期の寄生体に抗マラリア薬が及ぼす効果を調べています。

BrukerのAvance NMR分光計を使用した13C NMR分光法で解糖状況を観察することにより、48時間にわたるP. falciparumの発育周期全体について、高分解能の代謝プロファイルが得られています。

NMRスペクトルからは、P. falciparumに感染した赤血球は環状体の約20倍ものグルコースを消費していることがわかりました。さらに、機序が異なる抗マラリア薬(クロロキン、アトバクオン、クラドスポリン、DDD107498、アルテミシニン)のそれぞれが解糖レベルに及ぼす影響も調査されています。

その結果、環状体はtrophozoiteに比べて抗マラリア治療への抵抗性が強いことが、データによって示されました。このように、環状体には既存の抗マラリア薬の作用を受けにくい性質が備わっており、それが薬剤耐性マラリアの出現を容易にしていると考えられます。環状体に有効な即効性の新しい抗マラリア薬の開発が、急務であるといえるでしょう。

この研究で使用されたNMR分析法は、環状体の生存能力を低下させる新薬候補を見つけるためのスクリーニングをより効率的に行えるという意味で、全世界で続いているマラリアとの戦いにおいて強力なツールとなり得るのです。

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参考文献

Shivapurkar R, et al. Evaluating antimalarial efficacy by tracking glycolysis in Plasmodium falciparum using NMR spectroscopy. Scientific Reports 2018;8:Article number: 18076. https://www.nature.com/articles/s41598-018-36197-3#Sec8